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第2回 『ゲノム』
前回は『DNA』や『遺伝子』などバイオテクノロジー関係語の基本ともいえる言葉をおさらいしました。第2回目では、いよいよバイオテクノロジーで注目されているキーワードともいえる『ゲノム』に話を進めていきましょう。
『細胞』
生物を構成する最も基本的な単位です。『細胞』の構造で生物を分けると『真核生物(ヒトなど、中心に核を持つ生物)』と『原核生物(バクテリア、藍藻類など核を持たない生物)』に分かれます。真核生物では、中心部分に核があり、その中にDNAが保管されています。
あらゆる生物は細胞から出来ています。細胞は細胞から分裂して生まれます。細胞は分裂を繰り返して自己を複製するのです。細胞分裂こそが生命体をつないでいく根本の働きです。例えば、ヒトの場合、たった一つの受精卵から始まり、それが細胞分裂を繰り返し、臓器や骨など人体のあらゆる部分の個体を形作っていくのです。人体にある細胞の総数は60兆個と言われます。
細胞は、卵子と精子が受精してできた細胞で、身体の部分を作っていく『体細胞』と、卵子や精子になって次の世代の準備をする『生殖細胞』の二つに分けられます。
『染色体』
DNAが細胞の核の中にいる時の形で、DNAと蛋白質が結合したものです。『染色体』は、細胞分裂をする時に小さい棒状のものになります。その際に、色を付けて(染めて)おくと顕微鏡ではっきりと見える形であることから染色体という名前がついたようです。
染色体の数や形は生物によって一定です。体細胞には精子と卵子が持っていたそれぞれの染色体、合計2セットが入っています。(図表参照)人間では、23種類×2セット=46本の染色体から成り立っています。第22染色体まではその2セットが同じ形をしており『常染色体』と呼ばれ、残りの1セット・第23染色体のみが別々の形(X染色体とY染色体)をしており、これが男女の別を決める『性染色体』といいます。(生殖細胞では、減数分裂という分裂の仕方により、この組み合わせが1セットになります)
ヒトのひとつの細胞の中にあるDNAは1mを超える長さを持っています。それを23本に分けて染色体となったものが、ヒトの身体にある60兆もの細胞のひとつひとつに存在するわけです。
『ゲノム』
DNAの遺伝情報がある染色体のセットを『ゲノム』といいます。ですから、ゲノムはその生物の持つすべての遺伝情報(=その生物が持つ遺伝情報のすべて)のことです。例えば人間のゲノムは『ヒトゲノム』、イネのゲノムは『イネゲノム』などといいます。
ヒトゲノムは、約30億個の塩基から成り立っています。このコーナーの第一回目で触れた、DNAの4種類の塩基=アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の配列、計30億個をすべて読むことで、ヒトがヒトである特徴・その理由がわかる、というわけです。ですから、ゲノムは『生命の設計図』とも呼ばれるわけです。塩基がひとつの文字だとすれば、染色体はひとつの文、その文の連なりによるひとつのお話がゲノム、ということになるでしょうか。
DNAの今ひとつの役割に「蛋白質を作る命令をする=遺伝情報を伝える」ことがあったのを思い出して下さい。その仕組みにここで触れておきましょう。
『蛋白質』は細胞を形成し生命活動を担う重要な物質です。DNAの塩基配列はRNA(=リボ核酸。細胞内にある)に伝えられ(写され)、mRNA(メッセンジャーRNA)が細胞の核から出て、リボゾームで蛋白質が生成されます。DNAがRNAに伝えられる時、DNAの4種類の塩基、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)はRNAでは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)となります(チミンとウラシルが異なる)となり、これらが三つづつセット(遺伝の暗号)になって、一つのアミノ酸を形成します。アミノ酸が立体構造となったものが蛋白質です。DNA〜RNAという塩基の転写によって、生命の基本となる蛋白質をどう作るかが決まるのです。
< color="#555FAA">『ゲノム解析』
さて、人間のゲノムは約30億塩基対という数から成っています(体細胞では2セットだから60億)。ヒトの場合、そこに遺伝子は約3〜10万種類あると思われます(その正確な数も現在明らかにされつつあります)。この30億個の塩基対の構造と10万種ある遺伝子を解読して、その構造と機能を知り、生命の実体に迫ろうとするのが『ゲノム解析』です。A、G、T、C(U)という4種計30億の文字の並びを読むことで、何番の染色体のどこにどんな遺伝子があるのか、それがどんな意味を持ち、塩基のどんな配列がどんな性質を持っているのか…例えば、どんな病気を起こす(可能性がある)のか(遺伝子疾患)などがわかるのです。
これらが判明することによって、例えば、それを予防する薬(『ゲノム創薬』)や療法なども考案されるでしょう。他にも農業や畜産業などでの品種改良や食品作りにも応用することが考えられています。
ヒトゲノムの塩基配列読み取りの概要が完了したことが、2000年6月クリントン前大統領によって(英・ブレア首相との共同声明)ホワイトハウスで発表されましたが、本格的なヒトゲノムの解析が実現するのは2003年と予測されています。
『遺伝子組み換え』
生命の基本的な単位である遺伝子。ゲノム解析によってその役割がわかれば、それを操作することによって、新しい種を作ったり、種の壁を超えることができます。人間からは人間の赤ちゃんしか誕生しないように、自然界では原則として種を越えて、遺伝子が移ることは有りえません。それを越えて、生物を遺伝的に改良しようというものが『遺伝子組み換え』です。
『バイオエシックス』
脳死、体外受精、遺伝子治療など、医学の世界だけでは解決しきれない生命倫理を幅広く考えていく学問分野のことです。科学が未知の領域に踏み出すにつれ、必要とされる分野ともいえます。
『ゲノム解析』『遺伝子組み換え』…今回採り上げた『ゲノム』とは、生命の根幹にあるものを理解するという、科学が追求してきた究極のテーマのひとつです。それによって、例えば、遺伝による深刻な病気を予防したり、食糧危機を乗り越えるための生産が可能になったり、人類におけるメリットははかりしれません。しかし、一方で、解決していかなければならない多くの問題があります。
遺伝子操作などで改造された生物が環境中に出て生態系に影響を及ぼさないかという環境的な問題。医薬品や食品など直接人体に入るものについての人間への影響などの健康的な問題。そして、生命の基本を操作するという領域にどこまで人間が手をつけていいのか、という倫理的な問題…こうした課題は従来の医学の倫理だけでは解決が難しいものでもあります。ですから、医学や科学者の世界だけで話し合われるだけでなく、さまざまな分野の識者や、もちろん一般の人たちを交えて議論されるべき問題だと思います。科学が進歩すればするほど、人間の知性も向上しなければなりません。『ゲノムの解析』は生命科学という分野のみならず、人類史にとっても革命的な出来事です。私たちは今、その瞬間にいる証人として、倫理的側面を慮ることを忘れてはならないと思います。
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