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第3回 『クローン』
以前のこのコーナーで、『DNA』の役割のひとつとして、自己を複製することを挙げました。今回は今回は『ゲノム』を有益な実用に結びつける方法のひとつとして、すでに耳になじみのある『クローン』という言葉を主に説明します。
『クローン』
『クローン』はギリシャ語から来ており、「小枝」のことを意味します。もともとは植物学で、親株が子株の一部になる生殖(イモなど)によって生まれた子孫、挿し木などで増えることを呼んでいたのですが、それが動物など、生物にも転用されたようです。今では「複製されたもの」を意味します…ごくごく簡単に言ってしまえば、「コピー」ということになるのですが…「元になるものとまったく同じ遺伝情報を持つもの」をクローンと言います。
クローン技術が、クローン牛、クローン羊…など生物に利用されるようになった大きな目的は、良質の家畜を増やすなど優良品種の大量生産です。『遺伝子クローニング』といった場合は、1コの遺伝子(もしくはDNA)を複製して大量に増やすことです。組み換えたDNAの働きを調べる際などに、1ヶの遺伝子だけではわかりにくいため、クローニングが行われます。
クローン動物を作るのには、主に二つの方法があります。受精卵クローンと体細胞クローンです。
『受精卵クローン』、『体細胞クローン』
『受精卵クローン』とは、受精卵を用いて核移植を行うクローニングのことです。技術が進むにつれ、細胞から核だけを取りだして移植するのでなく(遺伝子が傷ついたりすることが多い)、バラバラにした受精卵を細胞ごと使って、卵子と細胞融合させる方法になりました。今や、クローン牛など多くの実例があります。この技術が確立されると、分化の進んだ体細胞を使ってのクローニング(『体細胞クローン』)も試みられるようになりました。『受精卵クローン』はいわば兄弟姉妹関係のクローンであり、主に良質な動物の大量生産に用いられます。『体細胞クローン』は親(細胞を提供したもの)と子の関係によるクローンであり、主に遺伝子組み換え動物を作るために用いられます。
『トランスジェニック・アニマル』
『遺伝子組み換え』は、ある生物のDNAを別の種のDNAに組み込むことですが、ヒト遺伝子を微生物や家畜などに入れることがあります。こうして出来た動物を『トランスジェニックアニマル(遺伝子導入動物)』と呼びます。では、なぜ、そのような遺伝子組み換えが必要なのでしょうか。
人間の生命活動の基になっているのは蛋白質です。ですから、ある特定の蛋白質が人体で十分に生産されなかったり、不足するために起こる病気もたくさん存在するわけです。ただ、これを直すための蛋白質は天然には微量にしか存在しないため、現実に医薬品として治療には使えませんでした。しかし、ヒト蛋白質を表す遺伝子を遺伝子組み換え技術により動植物の染色体に入れて、ヒト蛋白質を作りだすことができるわけです。また、 『トランスジェニック・アニマル』によって畜産という面からも品質の高い動物を効率よく繁殖させることができます。植物における品種改良も同様です。『トランスジェニック・アニマル』ばかりでなく、『遺伝子を導入した植物』も『遺伝子を導入した魚』も『遺伝子を導入した昆虫』も既に実現化しています。味や香りが好ましく、栄養価が高いもの、気候や土地が悪環境下でも育つものなどが開発されています。
ただし、『トランスジェニック・アニマル』には寿命があり、たとえ、ヒト蛋白質をかなりの効率で作ることができる動植物ができたとしても、『受精卵クローン』の方法ではいずれ死んでしまうわけです。そこで、核移植を前提とした『体細胞クローン』というクローニングの方法がクローズアップされてきたのです。
『ドリー』
1996年7月、イギリス・スコットランドのロスリン研究所で体重およそ6.6kgのクローン羊が誕生しました。哺乳類で初めての体細胞クローンの成功です。この時の体細胞には『乳腺細胞』(乳児に栄養を授けるための哺乳類独自の腺。女性の方が発達している)が使われたため、グラマラスな歌手ドリー・バートンにちなんで、子羊は『ドリー』と命名されました。
ドリーは「卵子をあげた羊」・「体細胞の核をあげた羊」・「子宮を貸した羊」という3頭の母親から生まれました。「卵子をあげた羊」の核を取り除いた卵子に「体細胞の核をあげた羊」の乳腺細胞からとった核を移植し、それを「子宮を貸した羊」の子宮におさめて、そこからドリーが誕生したわけです。ドリーは3頭の母親の中で「体細胞の核をあげた羊」と同じ種だったので(後に遺伝子配列も一致した)、体細胞クローン牛だとわかったのです。

ドリーが生まれた後、世界的に体細胞クローン作りが活発に行われるようになりました。97年10月にはハワイでクローンマウスが。98年7月には日本で体細胞クローン牛が出産(雌牛の双子でした)されました。
しかし、これら出産までたどりついた成功例いずれもが、実験例全体の僅かなパーセンテージに過ぎず、体細胞クローンの技術はまだまだ確実であり、成熟しているとは言えないというのが現状です。
『クローン人間』
哺乳類のクローン動物が誕生した現在、では『クローン人間』を生むことは出来るのでしょうか。
結論から言うと、技術的な答は“イエス”です。実現が可能なレベルにまで科学技術は発達しているのです。
ドリー誕生が発表された直後に、当時の米大統領クリントンとローマ法王から「クローン技術の人間への応用は禁止すべきだ」という声明が出されました。97年6月のサミットでは人間のクローンを禁止する宣言が採択、続く欧州首脳会議やユネスコの世界宣言でも同様にクローン技術の人間への応用を禁止する旨がうたわれました。
「技術的に可能である」ということと「実際に作ってよい」と認めることの間には、大きな違いがあるはずです。現在では、クローンは動物においては認めるが人間では認めない、という世界的な合意があります。けれど、その規制は倫理的な規定であって、法律ではなく、実際に研究者がクローンやそれに準ずる実験に取り組んだりした例も報道されました。
クローン技術や遺伝子組み換え技術が、どう使われれば有効で、どう使われると危険なのか、私たち個々が、その境界線を曖昧にすることなく、情報を理解して、適切な判断を下せることが必要と思われます。
さて、次回からは、ここまでお話してきた遺伝子技術やクローン・ゲノム解析などが具体的に人々の何に貢献していくのか、具体的に考えていくことにしましょう。
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