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5.試験管のかわりにコンピュータを手にした錬金術師たち
6.融合するナノテクノロジー
筆者:歌田 明広

1.『DNA』、『遺伝子』
2.『ゲノム』
3.『クローン』
4.『遺伝子治療』『遺伝子組み換え食品』…バイオテクノロジーで何ができるか。
5. 『DNA鑑定』『バイオレメディエーション』
筆者:富永 智紀



情報工学

第4回 『遺伝子治療』『遺伝子組み換え食品』
…バイオテクノロジーで何ができるか。

 『ヒトゲノム解析』が現実のものとなり、バイオテクノロジーが急速に進歩している今、その技術がもたらせてくれるものは、これからの私たちの生活にもおおいに関係してきます。今回、そして次回と、バイオテクノロジーができることを整理し、私たちの生活にどう役立つのかを考えてみましょう。

『遺伝子診断』
 ヒトゲノムの塩基配列が解読できれば、次の課題はそれぞれの遺伝子についての働きを解明することです。すべての遺伝子の働きを特定するにはまだまだ時間がかかりますが、他の種のゲノム解析からわかった結果などを利用したり、検証の方法の進歩により、すでにその働きがわかっているものもあります。個々の遺伝子の働きの解明は、とりわけ医療の世界に大きな進歩をもたらせます。さまざまな病気の原因になる遺伝子について知ることができれば、その病気を治療したり、その病気にかかりにくくすることもできるというわけです。こうしたヒトゲノムの情報を利用して、遺伝子のレベルから行う医療診断を『遺伝子診断』といいます。
 髪の毛(1本で可能)や血液の中の白血球細胞などから対象者のDNAを抽出し、健常な遺伝子と比較して、どこに遺伝子変異があるかを探すというのが『遺伝子診断』の大まかな流れです。

『遺伝性疾患』
 人間の病気には、感染症など体外からの原因で発症するものと自分の体内の原因で発症するものがあります。体内にあるものが原因となる病気は、遺伝子や染色体に何らかの異常があって(生じて)起こる病気です。
 異常な遺伝子を持っているために発症する病気を『遺伝性疾患』といいます。例えば、『鎌状赤血球貧血』という病気は、ヘモグロビン(蛋白質)に異常が起こり、酸素を細胞にうまく運べず赤血球をこわれやすいものにしてしまい、死にいたるものです。その原因はヘモグロビンの遺伝子の異常です。この遺伝子を持つ患者は必ず『鎌状赤血球貧血』を発症します。その遺伝子があれば、100%必ず発症する病気が『遺伝性疾患』です。
 その病気の原因となる遺伝子を持っているからといって、そのすべてが実際に発症につながるわけではありません。発症する場合もありますし、発症しない場合もあります。例えば、がんや糖尿病、心臓マヒ、動脈硬化、脳溢血などは遺伝的要因がすべてを決めるのでなく、生活習慣(ストレスや食べ物や暮らす環境…)などが影響を与え、発症するものです。異常な遺伝子があるからといって必ず発症するというものではない病気もある…これらを単に『遺伝病』という場合もあるようです。
 あらゆる病気は遺伝子か、環境か、またはその両方か、の3つの原因で発症するというわけです。

『遺伝子治療』
 病気を治療する方法としては、薬を使う薬物的な治療、外科的な治療などが一般的です。病気における遺伝子の病気における関わりがわかってくるにつれて、遺伝子の働きを利用して治療する方法が生まれました。これが『遺伝子治療』です。遺伝子の働きを利用するといっても、異常となる遺伝子を正常な遺伝子に治したり置き換えたりすることはまだまだ不可能です。免疫を強化したり、壊れた遺伝子を補ったり、原因となる細胞を攻撃したりする方法が主だったものになっています。
 現在、『遺伝子治療』は、先天的な難病やがん、エイズなどにも積極的に用いられており、効果をあげる日が待ち望まれています。

『SNPs』、『テーラーメード治療』
 遺伝的にある病気にかかりやすい人とかかりにくい人がいます。同じ薬を飲んでも良く効く人とそうでない人がいます。そうした病気に関する遺伝子の個人差を『SNPs(=ス二ップス)』という言葉で表現しています。
 『SNPs』とは、同じ遺伝子や同じ位置のDNAの一塩基(A,T,G,C)の個人差のことです。この『SNPs』は、ヒトゲノム30億対の塩基配列の中のわずか0.1%程度と目されています。しかし、ひとつの塩基が異なるだけでも、大きな個体の体質差につながるのです。AさんとBさんと塩基配列は99.9%同じ『ヒト』ですが、AさんとBさんがどんな病気にかかりやすいか、どんな薬がどのように効くかは全然違いますよね。それが、個体の体質差です。この0.1%を表す『SNPs』こそが、治療に遺伝情報を有効に使うために重要なのです。ですから、たくさんの『SNPs』をたくさんの人間から収集することがいろいろな病気の診断に役立つことになります。同じような症状の患者には同じような薬や治療を施してきたのが今までの医療でしたが、これからは『SNPs』をもとに病気の原因となる遺伝子が特定できたり、薬の効き方や副作用をあらかじめ考慮した『テーラーメード治療』(個人個人の体質に合った治療)が登場することでしょう。(図表参照)

『ゲノム創薬』
 ヒトゲノムが解析されることで新薬を創るシステムにも大きな変革が訪れます。植物から動物、微生物など、効果がありそうな化合物から薬は生まれてきました。ヒトゲノムが解析され遺伝子の働きが判明すれば、ヒトの体内からそれに対する化合物を探して薬を創るという全く新しい創薬方法ができるのです。遺伝子の研究、ゲノム情報を基にして開発される次世代の新薬が『ゲノム創薬』です。薬のターゲットとなる遺伝子を発見することに世界各国の製薬会社が取り組んでいる最中です。

『GM作物』、『GM食品』
 ゲノム解析や最新のバイオテクノロジーが人間の病気や治療にどう役立つのか、おおまかにおわかりいただけたかと思います。では、次に食糧・農作物の分野に目を向けてみましょう。
 種を越えて、生物を遺伝的に改良しようというものが『遺伝子組み換え』でしたが、それを農作物に行った場合『遺伝子組み換え作物(GM=Genetically Modified=遺伝的に組み換えた作物)』、それを用いた食品を『遺伝子組み換え食品(GM食品)』と呼びます。『GM食品』には加工食品、醤油や植物油も含まれています。病気や害虫や農薬、塩害に対する抵抗力を持たせたり、砂漠や寒冷地など厳しい環境でも育つ作物を効率良く作り、世界的な食糧不足にも備える目的があります。
 地球の人口は2010年には70億人、21世紀中には100億人を超えると予想され、これまでより食糧が必要となってきます。現在でも、世界中で年間数億の人間が餓死かそれに近い状態に置かれているのです。しかしながら、資源も、農作物を生産できる耕地も年々減少しています。品種を改良することでこうした世界的な食糧危機に対応することが『GM作物』、『GM食品』の大きな目的なのです。
 『GM作物』の例としては、除草剤耐性遺伝子を組み込んだ大豆、日もちして栄養分も豊富なみずみずしいトマト、殺虫性のあるトウモロコシ・ジャガイモなどが挙げられます。
 国内でも『遺伝子組み換えコムギ』や『遺伝子組み換えイネ』など穀物の開発が盛んになっています。今や『米』は、アジア中心に多くの国で主食となりつつあります。『イネゲノム解析』には日本がリードしています。イネは、主要な作物の中でも解析がしやすく(全塩基配列およそ4億3000万個)、他の主要作物との共通部分も多いのです。イネゲノムの解析をモデル利用して、世界で最も生産量の多い穀物『コムギ』のゲノム解析も進んでいます。

 ニュースや新聞で『遺伝子組み換え食品』という言葉をよく聞かれることと思います。
『GM作物』、『GM食品』は世界的食糧危機に対応する必要不可欠な手段です。一方で、安全性や生態系など環境に関する問題がクリアされていないとしてそれらを疑問視する意見があることも事実です。実験指針や安全性のチェックに関して公明正大な場を設け、有用なものを本当に人類の危機のために生みだすという姿勢のもとに、慎重に研究開発を進めていく必要があります。
 次回は最終回です。バイオテクノロジーと環境との関係やこれからのバイオテクノロジーについて考えてみましょう。