ナノテクノロジーや分子エレクトロニクスといった分野では、化学と物理学の融合が起きるということを書いてきました。また情報科学技術つまりコンピュータとナノテクノロジーが結びつく可能性についても前のページで触れました。
しかし、21世紀における科学分野の融合はそれだけにとどまらないかもしれません。
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● 工学技術と生命科学の融合 |
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 21世紀、大きな期待をになっている科学技術には、ナノテクノロジーや情報科学のほかに、生命科学、とくに遺伝子工学の分野があります。
昨年ヒトのゲノムが解明されたというニュースが大きく報じられました。30億対におよぶ人間の塩基配列がわかったわけです。
遺伝情報は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種の窒素化合物(塩基)によって構成されています。遺伝情報とはこの4つの化合物の並び方によって決まります。その情報にしたがってアミノ酸が配列し、タンパク質ができるわけです。塩基配列を変えるというのは突然変異が起きるということですが、技術的にはそうしたことも人間の手でできるようになってきました。
ジーン(遺伝子)マシンを使って、塩基配列を構成し、DNAを合成する。そんなことも可能になっています。ジーンマシンに希望の塩基配列を入力すれば、化学薬品を使って、DNAを自動的に合成します。DNAを大腸菌に入れて培養すれば、人工タンパク質もつくれます。人間は、DNAという生命の核心の技術まで手に入れようとしているわけです。
前のページの最後で、アメリカのナノテクノロジーの国家プロジェクトが、原子や分子からボトムアップで材料や生産物をつくることを目標にしていると書きましたが、生物もまた原子や分子でできていて、化学反応によって誕生し、成長します。原子や分子などボトムアップでものをつくる技術は、いずれは生命現象にも応用できるようになるかもしれません。そうなれば、ナノテクノロジーの技術は、遺伝子工学とも結びつくことになります。
機械をあつかう工学技術と生命科学、これまではまったく別個のものだった科学技術がひとつになる可能性さえあるわけです。物質と生命、ふたつの世界をともに同じ方法で組み立て、加工し、修理(治療)することさえできるようになるかもしれません。
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●危機と希望
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こうした技術はもちろん細心の注意をはらって進めていくことが重要です。
生命には自分の力で物質を作り上げていく自己組織化の能力があるわけですが、生命と機械を分子機械という同一の観点から見ることができるようになれば、機械も自己組織化の能力を持つ――つまりは、自分で自分を成長させ、治療し、また必要な場合には、自分のコピーを作っていくことさえできるようになるかもしれません。
ナノテクノロジーの提唱者ドレクスラーは、その著書のタイトルを『創造する機械』と名づけました。機械が創造する、それも自己創造する機械が生まれるかもしれない、というのがこの科学者の主張です。そして、彼は、その本の一章を「危機と希望」としました。ナノテクノロジーには、危険と希望の両方があるからです。
人間は、生命や物質の核心に近づき、それを自由に操作する技術を身につけようとしているわけですが、人類に大きな救いの手を差し伸べる(タンパク質を簡単に作れるということは、いまだ飢えに悩む多くの人々を救うことができるかもしれません)ものである一方で、取り返しのつかない事態を引き起こす可能性もあります。
しかし、ここまで科学を発展させてきた人類には、もはや引き返す道はないのかもしれません。科学という道具をいかにかしこく使っていくか。人類の未来はそこにかかっています。物質や生命の源をあやつれるようになりはじめたいま、そのことはますます真実になっていくでしょう。
ドレクスラーが設立したナノテクノロジー教育機関「フォーサイト研究所」。
ドレクスラーらが設立した分子製造研究所。(分子ギアや分子ベアリングも作っている。)
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