最優秀賞 経済産業大臣賞
「こんなところに新素材」
横井 美央 福岡県私立明治学園中学校2年
「カチッ、カチッって音は、何だろう。」
私が小さい頃から抱いている疑問。歯科での歯の検診の時のことだ。
歯に何かを塗ってその後、「カチッ。」なのだ。それはシーラント
というらしい。そして「カチッ」という音は、どうも光を当てる機
械の音のようだ。何故光を当てるのか、シーラントはどういう物質
なのか、頭の中は?(はてな)マークで一杯になっていた。そこで私
は、今夏、歯科検診のチャンスに、思い切って衛生士さんに聞いて
みた。
「あのぅ、シーラントってどういう物質なんですか。」
すると、衛生士さんはふと考えて奥の方へ行き、何やら本で調べ始
めたのだ。難しい質問だったのかなあと不安になったが、彼女は私
が診察を終えても熱心に調べてくれ、帰りに、
「ちょっと難しいけど、分かる?。」
と本を見せてくれた。そこには長い化学式が並べられていて、私に
はさっぱりだった。衛生士さんの説明によると、シーラントは光を
当てると強化プラスチック程に硬くなり、歯の溝を埋めているとい
うことだった。またそれは、さし歯を作る際にも使われているそう
だ。不思議で便利な物質だと思った私は、化学の本を手に取りパラ
パラとめくってみた。
「化学の新素材」の頁にシーラントに関する記載を見つけた。「感
光性樹脂―光を当てると固まる。この性質は歯の治療などに用い
る」自分の口の中にこんな最先端の物質が使われていると知り、私
はびっくりした。しかしこの頁には、まだ多くの新素材が紹介され
ていた。それらは、意外に私の身近なところにあるものだと感じら
れた。
宇宙開発やパソコンなどのエレクトロニクス分野で幅広く使われる、
フィルム状の金色の耐熱・耐寒性樹脂。本の写真をじっと眺めてい
ると、どこかで見たような気がしてきた。「そうだ、スペースブラ
ンケットだ。」
「スペースブランケット」というのは、私が中一の夏、フロリダの
ケネディ宇宙センターを見学した時に買ったお土産である。スペー
スシャトルの表面等に付けて、宇宙環境から機材を守るのがこれな
のだ。面白いことをやってみようと思った。お土産のスペースブラ
ンケットとアルミ箔を同じ大きさに切って、耐熱実験に挑戦した。
まず、アルミ箔とスペースブランケットをドライアイスに当て、五
分間冷やし、触って比べた。アルミ箔はかなり冷たいが、スペース
ブランケットの方は冷たさをそれ程感じない。「新素材は素晴らし
い。」と私は満足していた。次は、二つを燃やしてみた。母がアル
ミ箔、私がスペースブランケットを箸で持って、一緒にガスであぶ
った。
「チリ、チリ、チリ、チリ……。」
どちらも燃えてしまった。「えっ。」私は驚きの声を上げた。スペ
ースブランケットは燃えないはずなのに。落ち込んでいると母が、
「5ドルのお土産用だから、偽物かもしれない……。」
と言った。私も同感だ。確かに宇宙で通用する熱さ、寒さに耐える
樹脂はかなり高価なものだろう。本物であれば、マイナス269度
から400度までも耐えられる優れた性質を持っているのである。
だまされたのかなあという思いが、その日中私の頭の中を巡ってい
た。
もう一つ、高吸水性樹脂なるものも身近にあった。何のことはない、
紙おむつだ。「高吸水性樹脂」というのは、水溶性のポリマーとい
うものを橋かけ構造にしたもの。文字通り、多量の水を吸収できる
樹脂である。私は早速スーパーで紙おむつを買って、それに水を2
00tずつ入れてみた。1000t入れても重くなるだけで、水は
漏れなかった。ただ、初めの厚みが5ミリだったのが、5センチと
約十倍に膨れ上がっていたのである。私は、中にはどんな物質が入
っているのか興味津々で中を開けた。透明なゼリー状のものが、ぎ
っしり詰まっていた。これが高吸水性樹脂なのだ。吸水前は脱脂綿
の繊維の様なのに、こんなに膨らんで水を吸収することに私は感心
した。次に水を含む前の繊維状のものを少量手に取って、水で濡ら
してみた。ぬるぬるした感触になるが、そう多くの水を含むことは
ない。おむつの中では、たくさんのポリマーが集合している。だか
らこそ、より多くの水を吸収できるのである。大勢で協力するから
できる、ちょっと人間と似ている気もした。水をこれだけも吸収す
るのだから、台所や洗面所などでこの素材が利用できるのではない
かと考えた。
今回は、身近な経験や、偶然家にあったものから、ひらめいたり、
考えたりすることが多かった。新素材は難しい研究に使われるばか
りでなく、私達の生活に密着しているのだ。今までの物より便利に
使うために開発されている化学素材。その存在の知識を得て、少し
嬉しくなったと同時に、今後の進歩にも大いに期待したい。