|
第1回 『DNA』、『遺伝子』
「バイオ、バイオってよく聞くけれどいったいバイオって何なのだろう?」「遺伝子とかゲノムって言葉を、最近よく聞くけれど、それらとバイオテクノロジーの関係ってどうなっているのだろう?」そんな疑問を持ったことはありませんか?
『21世紀はバイオテクノロジーの時代』と言われ、日々新しい成果や発見が発表されています。けれど、新しい技術に注目するばかりでなく、「バイオテクノロジー」とは、どんな技術で、人間に何をもたらせてくれるものなのか…足元の理解をしておくことも必要だと思います。
このコーナーは、日頃よく聞くバイオテクノロジー関係の用語から、バイオテクノロジーの基本を理解しようというものです。知っていそうで説明できないあの言葉…このコーナーでおさらいして下さい!
『バイオテクノロジー』
バイオテクノロジーを理解するのですから、まずは「バイオテクノロジー」という言葉を知ることから始めましょう。
『バイオテクノロジー』とは、生命のよりよいあり方について研究する分野です。生命のよりよいあり方とは、健康で(快適な)生活が営めること、です…それも、肉体的な健康ばかりでなく、精神的な健康やそれらを育むための健全な環境も含めて、という意味です。従って、バイオテクノロジーの裾野は、医学・医療から食料、農業、環境…と多岐にわたる分野に及び、研究の成果を実際にかたちにしていく産業までのプロセスも考えれば、本当にたくさんの学問・業種に関わるものです。それだけに、21世紀の人間にとってのキーテクノロジーといえるのです。
バイオ、バイオと略されて用いられることも多いようですが、それが意味するものは(固有名詞で用いられる場合を除けば)、バイオテクノロジーを社会に役立てようと応用した産業…バイオインダストリーやバイオビジネス、バイオメディカル(生物医学)を表す場合もあるようです。また、バイオテクノロジーとITが結合した『バイオインフォマティクス(生命情報科学)』など、バイオの新しい分野も生まれていますから、バイオ、バイオという言葉だけでは何をさしているのか判断しにくい場合も増えてくるでしょう。
ちょっと混同しがちなのですが、ある時期、例えば微生物の機能を応用して、酒や酢、醤油やチーズなどを生産する発酵、醸造する技術(日本はこの技術に長じていました)のことも『バイオテクノロジー』と称していました。ただし、今日良く使われている『バイオテクノロジー』は、『分子生物学』という学問が基礎となって生まれたものとして区別される場合もあるようです。
『分子生物学』
さまざまな生命現象を分子(原子の結合したもので、物質がその化学的性質を保つ最小の構成単位)のレベルで解明しようという学問です。特に、DNA分子の遺伝現象に関わるものが主軸となって発展してきたものです。前述したように、『分子生物学』は、今日の『バイオテクノロジー』の基礎…いわば、生みの親としての学問なのです。
『遺伝子』
バイオテクノロジーを知るには『分子生物学』の主軸となる『遺伝子』に代表されるいくつかの良く聞く言葉を知る必要があります。
なぜ、親と子は似ているのでしょう。それは、親から子に性格や容姿を受け継ぐ「何か」が存在するからです。よく「血のつながり」「血縁関係」「血は水よりも濃い」などと言いますが、かつては「血液」こそがその「何か」だと思われていました。しかし、胎児の血液は母親から分け与えられるものでなく、胎児自身が作りだすものであることが明らかになり、子が親に似る(遺伝する)のは、別の「何か」が存在するから、と推論されるようになりました。
その「何か」の存在を最初に予想したのがオーストリアの牧師、かの有名なメンデルです。もう『メンデルの法則』はご存知でしょうけれど…彼はエンドウ豆を交配する実験により、子葉の色や種子の形状の伝わり方に一定の法則があることを見つけたのです1865年のことでした。親から子に身体の特徴や性質を伝えるための因子(ごく小さな物質)がある、だからこうした法則が成り立つのだ、というわけです。この「親から子に性質や容姿を伝える因子」こそが、つまり『遺伝子』というわけです。
『DNA』 『塩基』 『DNAの二重らせん構造』
細胞内の中心部には『核』があります。『核』の中に存在する酸性物質が『DNA(=デオキシリボ核酸)』です。
『DNA』はリン酸と糖、および4種類の『塩基』と呼ばれる分子から成り立っています。『塩基』とは、弱アルカリ性(=塩基性)を示す化学物質の一種です。4種類の『塩基』とは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)です。
1953年、分子生物学者ワトソンとクリックが、『DNA』の分子模型を発表しました。この模型は、『DNA』が持っている遺伝子としての性質をよく説明できるもので、今日の分子生物学・バイオテクノロジーの礎となる偉大な功績でした。
『DNA』の構造は、2本の細い糸がからみあった二重のらせん構造をしています。2本の細い糸はリン酸と糖が交互につながって出来ています。その2本の細い糸に、4種類の塩基のうちの2種類が対となって(AとT、GとCが必ず対になっている)結合しています。(図1参照)この結合の並び方・セット(塩基配列)が遺伝情報となるのです。これらがある特定の並び方をしていると、それが何らかの遺伝情報として、生体に伝えられるというわけです。
『遺伝子』と『DNA』は一般的には、同じ意味で使われていることが多いのですが、本当はこの2つは同じものではありません。『DNA』とは遺伝物質の一般的な言い方であって、『DNA』がすべて『遺伝子』であるわけではないのです。『DNA』のうちで、遺伝に関係のある機能(タンパク質を作ったり、それを制御する)を持っている部分のみが『遺伝子』です。ヒトの遺伝情報は、4種類合計30億個の塩基(A、T、G、C)からできていると言われます。そのうち『遺伝子』である領域はわずか5%に過ぎず、残りの95%は直接遺伝子とはならないジャンクなDNAなのです。
『DNA』には、二つの役割があることを知っておいて下さい。ひとつは、生物を作る有機物であるタンパク質を作ること。もうひとつは、細胞分裂に先駆けてDNA自身を複製することです。これらの役割が、遺伝子組み換えなど『バイオテクノロジー』に大きな意味を持っているのです。
いずれにせよ、生命の根源ともいえる『DNA』が『バイオテクノロジー』の基にもなっているわけです。第二回目では、今回の知識を少し進めて、最近よく耳にする『ゲノム』について話を進めていきましょう。
|